会長就任あいさつ

 会長 庄司真人

日本貿易学会 第31代会長  
庄司真人(亜細亜大学)

近年、貿易への関心がこれまで以上に強くなっています。それは、商品やサービスの国際的な取引という貿易そのものにとどまらず、貿易が企業経営、地域、生活、さらには安全保障を含む社会全体へ大きく影響してきているためです。関税、通商政策、経済安全保障、サプライチェーンの再編は、もはや専門家だけの議論を超えた状況にあり、貿易研究にも社会との広がり、接点が求められるようになっています。

同時に、日本の産業構造も大きな転換点にあるといえます。かつての製造業中心の社会構造から日本が大きく転換している今、空前の円安の中であっても、貿易を単純に議論することは難しくなっています。これは、従来の製造業を中心とした輸出入の枠組みに加えて、サービス、デジタル、物流、知的財産、環境対応、グローバルな事業展開などが複雑に結びついているためであり、貿易をめぐる問題は一層複合的・多面的になっています。そのため、今日の貿易および貿易研究は、産業や企業、法律や貿易慣習に関する諸制度、貿易にかかわる人材、地域と生活をつなぐ社会的基盤として捉え直す必要があります。

このような時代において、日本貿易学会が果たすべき役割はますます大きくなっています。本学会は、貿易理論、通商政策、国際経営、SCM・ロジスティクス、貿易商務など、多様な研究領域を蓄積してきました。今後は、これらの研究領域を本学会の重要な柱、すなわちピラーとして一層強化し、それぞれの専門性を深めるとともに、ピラー相互の交流を促進していくことが重要であると考えています。

先に述べたように、貿易が複合的・多面的になっていることを踏まえれば、それぞれの専門領域が閉じた状態であることは望ましくないと考えます。各ピラーが専門性をもちつつ、相互に交わることによって、これまで見えにくかった問題設定や新しい研究課題が生まれると考えられます。言い換えれば、研究交流のなかで思いがけない発見が生まれ、それが新しい貿易研究の指針につながっていくのではないかと考えます。

いわゆるトランプ関税は、その制度の是非はともかくとして、貿易が社会の中に大きく組み込まれたものであることを再確認させたといえます。関税や通商政策の変化を理解するためには、国際経済の理論的分析だけでなく、企業の調達・生産・販売の再編、物流や金融を含む実務、さらには地域産業や人材育成への影響を総合的に考える必要があります。

日本貿易学会の学術、社会への役割は、貿易をめぐる多様な知を結びつける場を設け、研究者、実務家、政策担当者による議論を通じて、新しい時代の貿易研究と貿易実践に貢献することにあります。貿易への社会的関心が高まっている今こそ、会員の皆様には、各研究活動、すなわち地域部会、専門部会等への積極的なご参加と、学会全体の発展に向けたご協力を心よりお願い申し上げます。

2026年6月